「はあ、結局ジローのせいで時間なくなっちまったじゃねえか」 「何だよ俺だけのせいにしてー跡部のせいだC〜」 「あーん?なんか言ったかジロー」 「何も言ってませーん」 跡部とジローの漫才のようなやり取りを見ては思わずくすくすと笑みを漏らす。そんな様子を見ていたレギュラー陣達も思わず頬がほころんでしまっていた。 「もう時間も無いからな、会場に行くぞ」 「会場…ですか?」 「そうだ、学園祭の、な」 結局学園祭の事について何も伝えられずにいたは学園祭に会場があることすら知らなかった。学園祭に会場があるなんて、と驚いたは思わず小さく声を漏らす。跡部は一度笑うと行くぞ、と声を掛けて部室の扉を開けて外へと足を進めた。 「ここからはね〜、バスで行くんだよ〜」 「そうなんですか?」 「うん〜、今日は顔合わせだからレギュラー全い、ん……」 「あ、芥川さん!?大丈夫ですか?」 「もう駄目だあ」 「へっ?ちょっと、芥川さん!?」 歩き進めていた途中、急に自分の方に寄りかかってきたジローに吃驚して思わずこけそうになる。前から思いっきり抱きしめられて、後ろに数歩よろける。自分よりも背の高いジローを抱きしめる格好になっているは状況が飲み込めないままなんとか後ろに倒れるのを防いだ。前を見るとみんなバスに乗り込もうとしていて声をかけるタイミングを失ってしまったことに気付く。男女の体格の差により短時間でもジローを支えているだけで腕が痛くなってきて今にも倒れそうだ、と思う。また後ろに倒れそうになってぐっ、と足を踏みしめた時、後ろに何かが当たった感触がした。 「…何やってんだ」 「ひ、日吉君!」 どうやら背中を支えていたのは日吉だったようで、とジローを交互に見ると呆れたように大きな溜息をひとつ吐いた。 「芥川さん、起きてください」 「…ん〜、気持ちい〜からもうちょっと…」 「なっ、……さっさとしてください。また跡部さんに怒られますよ」 「ん……、ちゃあん」 「あ、あはは…」 「甘えてないでさっさと行ってください」 「日吉厳C〜!」 ジローが頭をかきながらバスの方へと走っていく。その様子を見ていたは日吉の方を向き直り苦笑交じりでお礼を言った。 「ありがとう、日吉君」 「別に、当然の事だ。お前もこんなことくらいでいちいち慌てんな」 「うん、ごめんね」 嫌味のつもりで言った言葉を笑顔で当然のごとく受け止められて日吉は少し驚いてしまった。調子が狂うといいたげな表情で日吉もバスの方へと走っていった。途中ぴたりと止まると静かにの方を振り向いた。 「……おいていくぞ」 「あっ、う、うん!」 日吉は一言そう呟くとゆっくりとバスの方へと向かっていった。も日吉の背中を追いかけて軽快にバスの方へと走って向かっていった。 「ちゃーん!俺の隣にすわろーよー!」 「っ!俺の隣に座ってミソ!」 「何言うてんの、お嬢さんは俺の隣やろ?」 バスに乗り込んだ途端にいきなり沢山の部員に声を掛けられて苦笑いが混ざる。日吉は溜息を吐いて後ろの方の空いている席に座ると鞄から出した自前の本を読み始めてしまった。 が日吉の方を見つめていると、いきなり大きく足を地面に叩きつけた音が聞こえてきて肩を大きく震わせてしまった。 「運営委員は!」 「い、委員長の隣です!」 跡部に睨まれてつい叫ぶように答える。尚もこちらを睨んでくる跡部に冷や汗が背中に流れる感触がした。ひとしきり睨むと跡部はニヤリと笑ってよし、と小さく呟いた。 ジローや岳人がずるいだの脅しだの文句を言う中、跡部は何とでも言え、と呟き満足そうに目を瞑った。 は失礼します、と呟いて跡部の横におずおずと腰掛ける。結局は通路を空けて隣の座席にジローと岳人が座りあまり変わりは無かったが。 それでも跡部と肩が触れるたびに飛び上がるくらい驚いて謝るを見て見てて飽きないな、と跡部は思った。 次々と同じような大型バスが見えてきたころ、同じくして学園祭の会場も微かに見えるくらい近づいてきていた。 |