「氷帝は3号室。分かったらさっさと行け」

跡部がレギュラーを前にして声を出すとレギュラー陣は「はい」や「いってきまーす」など口々にだすと会場の地図を見ながら3号室に向かっていった。
ぞろぞろと人が減っていく中、若干覚醒しかけたジローが首をかしげながら「ねー、あとべー」と間延びした声で問う。この場を後にしようとしていた跡部はまた出鼻を挫かれ、もう諦めた、とでもいうように浅く溜息を吐いて眉間に指を沿わせると「何だ」とぼそりと呟いた。

ちゃんは?ちゃんはどうすんのー?」
「……ジロー。こいつは立海大の運営委員だってさっき言っただろうが」

うんうん、と相槌を打ちきらきらと輝いた目で跡部の顔を見つめる。跡部はいつも見せないような笑顔を浮かべて少しずつジローに近づいた。

「……立海の生徒は立海の部屋に決まってんだろーが! わかったら連れて行こうとしているその手を離せ!」
「いーやーだー! ちゃんも氷帝でいいじゃんかー。氷帝の運営委員にしよーぜ!」
「あ、あはは……」

の腕を放すもんか、と握るジローが跡部に講義する。ジローを思いっきり睨みつけている鬼のような形相の跡部に対し、ジローは楽しそうに舌を出し「べーっだ」と子供のようなことを言っている。
全く正反対のオーラを湧き出している二人に挟まれては眉毛をハの字にして苦笑するほか無かった。

「こっの、我がまま野郎!」
「うわーん! ちゃーん!」

バリッ、と音がしそうな勢いで跡部に思いっきりはがされたジローは「跡部のケダモノー!」と自分自身を抱きしめながらきゃー!っと叫んだ。跡部は「誤解が起こりそうな言い方するんじゃねえ!」と叫び逃げたジローを追いかけようと方向を変えた。
ふと、跡部の視界の隅に棒立ちになっているが入り、「立海は12号室だ。何かあったら電話しろ」と言い制服のポケットから一枚の紙を出すとのほうにゆるく投げた。
は慌ててその小さな紙を取ると、ジローの逃げた方向へ軽く走っていった跡部の背中にお辞儀をした。

跡部に渡された紙をまじまじと見つめる。は驚いて口に手を当てると、勝手に言葉が漏れた。

「中学生が名刺持参って……。委員長ってやっぱりすごいんだ」







「失礼します……」

トントン、と控えめにノックをしてが部屋に足を踏み入れる。
そこには12号室と書かれているプレートが書けられていて、白をモチーフとした洋風の部屋だった。は部屋中を見渡すと一息ついて自己紹介をしようと口を開いた。

「はじめまして、2年の……」
、そうだろう?」
「あ、はい……よろしくお願いします」

自分の名前を知っていたことに驚き、慌ててお辞儀をする。
静かに目を閉じてに問いかけた男の後ろから銀髪の男が「そんな所につったっとらんとこっち来んしゃい」と言い手招きをした。
は小さくお辞儀をした後に招かれたほうへと足を進めた。

「お前、……と言ったか」
「あ、はい。そうです」

一瞬顧問か、と疑ってしまうほどの風格の男には少したじろぐ。しかしそれが直ぐに立海で有名な『皇帝真田弦一郎』とわかり、背筋が勝手にぴんと張る。

「俺たちが今集まっている目的は全国テニス部合同学園祭……だったか?」
「はい、わたしはそう聞いています」

緊張しつつもしっかりと答えると真田はを一瞥した後いつもよりも少し低く、威厳のある声を張り上げた。


「この行事、我々立海大テニス部は辞退させてもらう」




(第一アクシデント)