を乗せた跡部の車がもの凄いスピードで走っていく。
時々ブレーキの衝撃に耐え切れずにのからだが前後に揺れる。その様子を跡部は横目で捉える。

「あ、あの…」
「アーン?何だ」
「この車、早すぎませ…きゃっ!」
「おっと」

跡部の方を向きなおして喋っていたは一段と大きい衝撃に耐え切れず跡部の方へ倒れかける何とか持ち直したものの助けようとした跡部の方が止まらずそのままを抱きしめるような形になった。

「ご、ごめんなさい…!」
「…気をつけろ」
「は、はい!」

慌てて跡部から離れたを跡部は数秒見つめてからまた窓の外の方に視線を戻した。小さな溜息をひとつ吐き、窓の外の景色を静かに見据える。跡部は足早に流れる景色を瞳で追いかけながら小さく息を吸い視線を変えずにそっと呟く。

「…まあここは跡部専用ルートだからな」
「そ、そうなんですか?!」

目を見開きさも驚いたという顔をしているを見た跡部は「お前は本当にお約束な奴だな」と少し笑った後に口に出した。は慌ててその場にしぼむと跡部専用ルートがどんなのか見ようと姿勢を変えないよう一生懸命窓の外を覗こうとしていた。跡部にばれない様に頑張っているのだろうが当の跡部からは丸分かりだ。しかしそんな様子を跡部は笑いをこらえながらじっと見据えていた。

…コイツなかなかおもしれえな。立海二年、か。

暫くして跡部が自分を見ていることに気付いたは窓の外を見るのをやめ、恥ずかしそうに跡部を見つめるとすぐに俯いてしまった。
跡部はそんなを見て小さく笑うと目を瞑った。







「着いたぞ」
「わ…やっぱり大きいですね」

氷帝学園の門のところで跡部と共に車から降り、綺麗で大きい氷帝学園を目にしては若干後ずさりをする。
門の前の時点で既に腰が引けてしまったを跡部は鼻で笑いさっさと行くぞ、と急かした。
は本館の方に意識が集中してしまっていてハッとすると跡部の後ろを小走りで追いかけた。

「す、すごい歓声…」
「アーン?こんなのいつもの事だろ」
「この歓声がいつもなんですか?!」

さも当たり前とでも言いたげな表情の跡部と信じられないと言いたげな表情の。その周りでは帰っていた跡部に対する黄色い声援やテニスコートの中で練習試合をしているレギュラーに対する熱い声援などさまざまなものだった。
もちろん跡部の後ろをついていっているは、当然のように目立ち恐らく跡部のファンであろう人たちに怪訝そうな視線を向けられた。

氷帝の中で立海の制服はやっぱり目立つよね…。それにしても、跡部さんどこに行ってるんだろう。

なるべく周りと目を合わせないように、跡部から離れないようにしながらは跡部の背中だけを見続けた。

「おい、帰ったぞ。レギュラー集合!」
「「うぃーす」」

跡部の掛け声によってそれまでコートで各自試合をしていたレギュラー陣が跡部の前へと集まる。
跡部の半歩後ろに立っている見るからに氷帝生ではないにレギュラー達はクエスチョンマークを浮かべながら視線を送る。

「お前ら……ッチ、ここは人目を買う。場所を変えるぞ」

いつの間にか声援はなくなっていて皆が皆コートの隅にいる跡部率いるレギュラー陣の方を静かに見つめていた。周りのその様子に跡部は眉をひそめて部室があるであろう方向に踵をかえした。

「ねえねえ君なんて名前〜?」
「えっ?私ですか?」
「お前以外にいないだろ。んで名前は?言ってミソ!」
「あ、はい。です」
ちゃんだね〜!、俺はね…」
「おいジロー、向日!さっさと来い!」
「なんだよ、クソクソ跡部っ!」
「あちゃ〜跡部怒っちゃった。んじゃ俺急ぐね〜」
「あ、はい…」

勝手に始められて勝手に終了された会話に少し吃驚しながらも
3人の後を自分も少し走って追う。前の方ではジローがちゃ〜ん!と明るく笑いながら手を振る。
そんな少し子供染みたジローの行動に口元が緩みながらも陽菜も笑顔で小さく手を振る。
跡部や先に行った向日とジローが入った豪華な建物を見上げてはこれがテニス部の部室なんであろうと理解する。

前に行っていたのが3人なのでまだ後ろにレギュラー陣がいるんじゃないかと確認しようとは後ろを向いた。
そこには大きな影がありその影が人によるものだと思ったは、きゃあ、と小さく悲鳴を上げた。そのままバランスを崩して後ろにこけそうになるの腰を抱いて男は優しく微笑みかけた。

「大丈夫かい?驚かせてゴメンね」
「い、いえ…。ありがとうございます!」
「そんな、全然構わないよ」
「あ、すみません。先に部室入ってください」
「君が先に入りなよ。それに同い年なんだから敬語使わなくていいよ」
「え?」

が不思議そうに見上げると長身の男は微笑みながら「ここ、書いてある」と自分の胸の方を指で指す。は慌てて自分の胸元を見て名札がついてあることを今更ながら気付いた。

さん、だね?」
「うん、あなたは?」
「俺は鳳長太郎だよ」
「鳳君だね。よろしくね!」
「ああ、こちらこそよろしく」

えへへ、とと鳳がお互いに笑いあっていると部室の中から跡部の「おせーぞ!」という声が聞こえてきた。その声にびくりと小さく震えると慌てて謝りながらが部室の中に入る。

「自分、ずるいわ」
「長太郎…激ダサだな」
「見ず知らずの女によくデレデレできるな」

後ろで待っていた残りのレギュラー陣の厳しい言葉を受けて鳳は苦笑いしながら「そんなことないっすよ」と呟いた。

ほな入ろか、と言う一言で部室の扉を開けて一足遅く残りのレギュラー陣が入っていた。




(氷帝レギュラー)