「頼むよ、耐えられないんだ」


瑛君が居なくなった。珊瑚礁もなくなった。あたしの居場所も…なくなった。冬の寒い日、あたしは学校にも行かず海の近くの灯台に来ていた。何をするでもなく、今までの出来事をボーっと思い出してみた。思い出すのは瑛君の事ばっかり。ここで瑛君と出会った事、ここに瑛君と沢山来た事、ここで瑛君と…キスしたこと。頭の中は瑛君のことしか考えられなくて、いつもいっぱいいっぱいで、それでも一緒に笑ってくれた。その優しさが嬉しかった。いつまでも、そんな日が続くと思ってた。好き…なんだ。今更になって気づくなんて、いや、ずっと前から分かってたこと。それでも、分かろうとしなかった…こと。「すき」言葉に出してみた。瑛君に言ったらどうなるかな、赤くなるかな?冗談だろ、って言うかな?もしかしたら無言でチョップされちゃうかも。あはは、それが一番瑛君らしいや


「あはは……」
「お前……なんで泣いてるんだよ」


後ろから急に声がした。とても……悲しい声だった。今にも泣きそうな位震えてて……何だか悲しくなった。


「ハリー……なんで?泣いてないよ?」
「嘘付け、涙で顔、ぐしゃぐしゃだぞ」


ハリーが余りにも優しく笑うから、あたしはもっとぐしゃぐしゃな顔になって、(泣いた、)子供みたいに泣きじゃくるあたしをハリーは何も言わず抱きしめた。


「何で……俺じゃダメなんだよ……」


あたしの肩を抱く力が強くなったハリーがなんて呟いたのか、自分の泣きわめく声が大きすぎて聞こえなかった。けど、すごく悲しくなった。ハリーは目を真っ赤にしながら「俺が泣いてどーする!」って叫んだ。あたしは何だかおかしくなって思わず噴出した。


「あはははっ!!ハリー……ありがとね」
「おう……もう泣くなよ」
「うん……、あたし、瑛君を信じるよ!」
「……ああ。そうしろ」


ハリーはまた、なんだか悲しそうに笑うとあたしの大好きな歌を歌いだした。あたしは海の匂いを感じながら、ハリーの歌を聴いた。海の音がバックミュージックのようで、とても綺麗だった。流れてくる涙もそのままにして、ただハリーの歌を聞いた。


「ONLY YOU…」
「泣くなっていったのに…」


歌い終わると、ハリーは困ったように笑ってあたしの頭をぐしゃぐしゃにして、この場を立ち去っていった。


「ハリー!」
「っ、なんだ?」
「ありがとう……」
「……ああ」


ハリーはこちらを振り返らずに右手を少しあげてそのまま帰っていった。
そうだよ、私が信じなくてどうするの。大丈夫、瑛君はきっと戻ってくる。そして戻ってきたら、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう。


瑛君が大好きだって


例えばそれが強さだったら

(俺も)(好きなのにな)