今日が田島君の誕生日だってことは、浜田君たちから聞いていた。 けれど勇気の無い私はきっと心の中でおめでとうって言ってこの素晴らしい日を逃すんだろうなあ、と同時に思ってた。 それがどうだろう、今日日直なのは泉君と私だったはずなのに、どうやら気を使ってくれた泉君は田島君に日直を変わるよう頼み込んでいたらしい。 その証拠が、黒板の右下に書いている私の苗字のという文字と田島という文字だ。 事の起こりに気付いたのはホームルームの時間だ。特にすることも無く視線を黒板に移すと若干乱暴にチョークで書かれた日直の文字。今日の日直は私だったことは知っていたし、相手が泉君だとも知っていた。なのに泉、とあるべきところに書かれている文字は田島。 急いで後ろを振り向くと窓際の方から泉君が小さくピースサインをしてくる。その後ろでは浜田君が笑ってて、三橋君が嬉しそうにしている。 どうしようどうしよう。田島君とまともに喋ったことが少ししかない私は、とりあえず少ない脳みそを働かせて放課後の事を考えた。放課後には日直二人が残って日誌を書かなければいけない。ということは必然的に会話が発生すると言うことだ。おめでとうって言ったほういいのかな、勝手に誕生日調べてて気持ち悪いとか思われちゃうかな、とぐるぐる考えているうちにもう放課後で。日誌を書くだけだよ、と自分に言い聞かせても胸の鼓動は早いままで。 泉君たちが私の隣を通ってがんばれ、と声を掛けて帰っていく。泉君の「顔赤いぞ」と言う言葉で更に緊張が増してしまった。田島君に気付かれない、よね。 「ー!日誌書こうぜー!」 「えっ、あ、う、うん!!」 急に後ろの方から叫ばれて、その声の主が田島君で、私は一度に二度吃驚してしまった。田島君は私のそんな様子を見て「どーしたー?!」と楽しそうに笑っていた。うわあ、鼓動が早いよ。日誌書くまで持つのかな。私が筆箱を持って田島君の方に向かうと田島君はいつものように明るく笑った。 「ごめんねっ、今日日直じゃないのにしてもらって……」 「が謝ることじゃなくね?俺が泉と変わっただけだし」 「う、そうなんだけど……」 その原因は私なんです、と心の中で呟いてからちらり、と田島君の方を見る。当の本人はん?と首を傾げて白い歯を見せて笑った。 「じ、じゃあ早く日誌書こうか!」 「今日野球部ねーから別にゆっくりでいーぜ!」 なんて優しいんだろう……!私(まあ泉君なんだけど)の制でわざわざ残ってくれてるのに、その上私に気まで使ってくれてる……。悪いな、と思う反面このままずっと残っていたいな、と言う気持ちが残る。 「俺感想とかかけねーからかいて」 「あっ、うん!」 特に何事も無く日誌を書き終えて幸せな時間も終わりか、と少し悲しくなる。今日は田島君の誕生日であって私の誕生日じゃない。これだけあっただけでも十分幸せだ。筆箱を片付けながら心の中でお誕生日おめでとう、と呟く。田島君の方を見ると私の方を見つめてぼそりと囁いた。 「実は俺今日誕生日だったんだ」 「!そ、そっそうなんだ!お、おめで、とう!」 本人から聞けるとは思ってなかったから言えると思っていなかったおめでとう、という言葉を言うことができた。なんだか嬉しくなって頬が緩む感じが分かった。 「もう泉たちにはプレゼント貰ったんだよ」 「そ、そうなんだ!何貰ったの?」 会話を長く持たせたい、その一心で疑問系で言葉を返す。 「今日の日直」 「え?」 「今日の日直変わってくれって、頼んだ」 いつもの笑顔とは違う真剣な顔で見つめられる。思わず瞳が揺らぐけどちゃんと田島君の目を見て考える。 だって、そんな、日直なんて変わってもらう必要、あるの?もしかしたら私の事をからかってるだけかもしれない。そんな考えが脳裏によぎったけど田島君の目は冗談を言っているようには見えなくて。田島君の唇がゆっくりと本気だから、と動くのが分かった。 「……期待しちゃうよ」 「期待しろよ」 「……っ、勘違い、しちゃうよ」 「勘違いじゃないから」 涙が溢れているのがわかる。目頭が熱くなって鼻の奥がツンとする。あふれ出る涙をとめることはできなくて、両手で鼻のところを包み込んだ。 頼んだのは、泉君じゃなかった。田島君が、頼んだんだ。勘違いしちゃおうか、なんて考えたとき。田島君が泣きすぎ、と少し困ったように笑った。 「……今日部活無いんだけど」 さっき聞いたよ、と思い思わず笑みがこぼれてしまう。 とりあえず向かうのは職員室、そのあとは二人でゆっくりと誕生日を祝おうか。 大丈夫、今日はまだ、終わらない。 どこへ行こうか (まったく、両片思いは見てるこっちがじれったいっつーの!)(恋のキューピッドは泉) |