窓側においていた写真盾がことり、と音を立てて倒れた。窓を開けていたので外から入ってきた風で倒れたという事がすぐ分かった。私は飲んでいた紅茶を受け皿の上に置いて椅子から重い腰を動かした。窓を閉め、カーテンを少し直し倒れていた写真盾をそっと反した。そこには私と骸が二人で写っていて幸せそうな笑顔を浮かべている。私は少し照れくさそうで、でも嬉しそうに頬をほころばせている。骸もすごく幸せそうで、その写真を見ていた私にも思わず笑顔が浮かんでくる。緩やかな時間を過ごしているとチン、という軽快な音が部屋に響いた。私はキッチンまでゆっくりと足踏みをしながら向かった。電子レンジの扉を開けるとそこからは何ともいえない美味しそうな香りが漂ってきた。少し嗅ぎすぎて気持ち悪くなったが、その吐き気は一瞬で治まりすぐに気分もよくなった。私は少しほっとして、すぐ横にあった鍋掴みを取り、今日の晩御飯が乗っているお皿をを両手で取り出した。鍋掴みをつけているとはいえ出来立てはやはり熱いので少し慌てつつも傍にあるテーブルの上にそっとおいた。 「あとはサラダを盛り付けるだけ、と」 私が小さく呟くと同時に玄関のドアが開く音がした。私はリビングへ入ってきた骸の顔を見ておかえりなさい、と笑顔で言った。骸はただいま、と笑顔で言うと今まで着ていた服を脱ぎ、クローゼットに掛けに行った。私は鍋掴みを外し、エプロンでさっと手を拭くと骸の後をついて行った。 「いいよ骸。服はあたしが掛けとくから。」 「いえいえ、はゆっくり座っていてください。」 「でも……」 「ほら、今日はあれをやっていただきたいんです」 「あ、うん。じゃあ待ってるね」 骸の言うあれ、というのは膝枕の事だ。疲れたときはいつも私の膝枕でゆっくりと疲れを取る。私の膝枕で疲れが取れるなんていわれたらそんな事朝飯前だ。いつでも骸にやってあげていたい。でもそうもいかない。骸の仕事もハードになってきて、この頃は家に帰るとご飯を食べてお風呂に入ってすぐに寝てしまう。ご飯の時間までに帰ってくるのは容易なことじゃないと思う。それでも骸はご飯だけはいつも家で食べてくれる。私はそんな骸が大好きだ。 「」 「あ、骸。今日も一日お疲れ様」 「はい、こそ一日お疲れ様」 「そんな、骸に比べたら全然大変じゃないよ」 骸はいつもの普段着に着替えていて、私の膝に頭を乗っける。私は骸の頭を子供をあやす様に優しく撫でた。そんな私を見つめていた骸は少し微笑んだ後すぐに目を瞑った。目を瞑った骸は、まだ少し微笑んでいる。思わず私の頬も緩み、そのまま骸の髪の毛をまた、撫でる。 「だって十分大変じゃないですか」 「骸が一番大変だよ」 「それを支えてくれているのはでしょう?」 「私だって骸に支えてもらってる」 私が撫でていた手を止めると骸はぱちり、と目をあけた。にっこり、という言葉が似合う笑顔で骸は微笑み、つられて私もふにゃっ、とした頼りない笑顔を骸に向けた。骸は私の頬にそっと右手を沿え、急に口付けをしてきた。私は一瞬吃驚したものの、すぐに目を瞑って骸のキスに答えていた。 「……っ、は。骸?急にどうしたの?」 「いえ、があまりに可愛かったので、つい」 そんないい笑顔で言われたら何も言えなくなってしまう。多分骸はそれを知っての上の行動だ。骸は確信犯だから困る。 「もう、ついじゃないでしょ」 「すみません。これからは気をつけます」 「ほんと、気をつけて下さい!」 「はい。もう一人の体じゃありませんしね」 またにっこりと笑って骸が言う。私は一瞬吃驚して目を丸く見開いたけどすぐにいつもの、(あの、ふにゃりとした、)頼りない笑顔に戻った。 「……気づいてたの?」 「ええ、薄々は」 「はあー、吃驚させようと思ったんだけどな、やぱり骸に隠し事はできないね」 「残念ですね。僕に隠し事なんて、まだまだです」 「あはは……、骸…喜んでくれ、るか、不安、で……」 私はぽたぽたと涙を零しながら必死の声で呟く。涙交じりで震えた声は、消えそうなくらい小さかったけど、きっと近くに居る骸には全部聞こえているだろう。骸は勢いよく起き上がり、私の手を優しく握った。 「何言ってるんですか、。僕すっごく、すーっごく嬉しいんですよ?当たり前じゃないですか」 「む、くろぉ……!!」 私はその言葉を聴いて今度は感動で涙がこぼれてきた。とまらない。これはもう一生止まらないんじゃないかと思うくらい涙は勢いよく流れ続けた。骸はおやおや、と困ったように笑うと、私をぎゅっと優しく抱きしめてくれた。今度は骸が子供をあやすように、背中を優しく叩いてくれる。私はその優しさにまた、涙が止まらなくてぐずぐず言いながらも骸の背中を力いっぱい抱きしめた。 「、愛してます」 「わたしも……っ!むくろ、すきぃ……!」 「男の子でしょうか、女の子でしょうか?」 「まっ、まだ3週間だかっら、わか、んなかった……」 私がしゃくりあげながら言うと骸は少し笑って「まあ、と僕の子供ならどちらでもいいんですけどね」と心底嬉しそうに言った。私は本当に、本当に心の底から、この人と結婚してよかったなあ、と思った。 結婚してもうすぐ一年、神様からのプレゼントを私達は授かりました。 |
愛の結晶
(こんにちは、)(早く元気な顔を見せて)