古泉が走っていった。にやけながら走っていったあいつの後姿を見ながら俺はボーっと考えていた。(あいつ、キモい)俺の隣でゆっくり歩いているを見ると花を真っ赤にさせながら古泉の背中を見送っていた。こっち、みろよ。本当は強くそう言いたかったけどそんな勇気は俺にはない。よって俺の頭一個分くらい小さいを見つめることしかできないのだ。なんて情けない。こんな俺が時々本当に嫌になる。俺がじっとを見つめていたら俺の視線に気づいたのかは勢いよく俺を見上げた。はそんな俺を知ってか知らずか可愛らしく力なく笑うとまたすぐに地面をの方を向きうつむいた。ああ、可愛い。このまま俺のものになってしまえばいいのに。そんな事を考えていると校門にある小さな段差に蹴躓いた。

「あ」
「キョン?どうした……の?!」

ドタッという鈍い音を立てて俺は倒れた。同時に少し前に居て、丁度こっちを振り向いたを巻き込んで、だ。俺の中にすっぽりと納まるサイズのの温もりを感じながら俺は死んでもいいとさえ思っていた。どうかこのまま時が止まって…、

「あー!キョンの馬鹿!!馬鹿キョン!!」

……神様はそんなにいい奴じゃないらしい。は邪魔とでもいいたげに俺を思いっきり突き飛ばした。鞄を大事そうにもって俺のことを睨みつけている。そ、そんなに悪い事したか?俺…。確かに悪いとは思うがそこまで睨む必要はないと思う、ぞ……。今は俺が抱きつくような形になったが…もしかしてそれが嫌だったとか…?!うわ…ありえる。ちょっとショックが増してきたぞ。俺は未だ座り込んだままだったことを思い出しのそのそと立ち上がった。その間もは俺のことを睨みつけたままだった。…そんな顔も可愛らしいと思う俺は馬鹿だろうか。

「もー、割れちゃうかと思ったんだからね」

はそう言うと寒さの制で赤く染まった頬を膨らまし、可愛らしい桜色の唇と尖らせて俺を見つめてそういった。割れる?なんだ、ガラス製品でも入ってるのか、その鞄は。そう突っ込もうとしたその瞬間。ふ、と今日が何の日か思い出した。クラス中その話題で持ちきりでやるせない俺は休み時間などは寝たふりをして気づかないようにしていたのだ。そうか。今日は2月14日。れっきとしたバレンタインデーだ。は誰かにあげたのか、それが一日中気になっていたのだが放課後部室での極上の笑顔を見るとそんなことはどうでもよくなってきてすっかり忘れていたのだ。いそいそとは鞄からハートの箱を取り出す。可愛くラッピングされたそれを俺の前に差し出すとの頬はもっと桃色になった。(多分、俺も)

「多分、割れてないと思うから……」
「あ、ありがとうな」
「い、いいよ!………!い、今見ちゃダメ!」

早くそのチョコをお目にかかりたい一身でリボンを外そうとするとがおもいっきりタックルをしてきた。その拍子にリボンを箱の間に挟まっていたメッセージカードらしきものが宙を舞い、一回転すると俺の手元に帰ってきた(お見事!)

「好き、です……?」
「……っ、馬鹿キョン!!」

は顔を真っ赤にすると180度回転し、スタスタと先に行ってしまった。ここから見てもの耳が真っ赤なのが分かる。俺はにやける顔をがんばって隠しながらもの元へ走っていった。赤く染まって笑みを隠し切れない顔にマフラーを巻きつけながらこれから俺の気持ちをどうやって伝えようか、それだけを考えていた。古泉のような英国紳士ではない俺は告白なんざした事がない。ましてや告白の返事だ。

ホワイトデーまで待てない。もちろん返事は、決まっているんだからな。


後姿に恋をした



(…俺もな、)(好きだよ)