「どうぞ」
「いらない」

古泉が差し出してきた両手を右手でぴしゃりと跳ね返す。「危ない」と笑顔を崩さずに言いながらあいつの手の上にある小さな箱を包んだ。
にこにことこっちを見ている。見なくていい。

「いらないってば」
「そういわずどうぞ」
「ハルヒたちに渡して来ればいいじゃない」
「涼宮さんたちには既に渡してきました」

本当に笑顔を崩さずに一つずつ答えていく。ていうかハルヒたちにはあげたのね、あたしが最後なわけね、ふーん。ま、彼女でも何でもないから仕方がないのだけれど。
それでもやっぱり胸が痛んでしまう。
素直になれない自分に、一番。

「受け取ってください」
「い、や、だ」

普通に、可愛く「ありがとっ!」って言えばいいだけなのに。何でその一言がいえないのかなあ。 もう、心の中だったらすっごい素直なのに、あたし。
古泉にあたしの心の中見えればいいのにな、そしたらこんな苦労しなかったのに。

と、まあ古泉に責任をなすりつけたところで。

古泉好きだー!だいだいだーいすきっ!その優しい笑顔とか、誰にでも優しい性格とか(たまに嫌だけど)もう全部が好き!この思い古泉に届け!バレンタインマジック起これー!!

「受け取ってください」
「無理」

そんなバレンタインマジックは起こるはずもなく。あたしはついに「無理」とか言ってしまったのである。

ふざけんな自分!あーもう、自分大嫌い!古泉大好き!

「ありがとうございます」

にっこり笑顔で古泉は……あれ?

「……あたし声に出てた……?」
「いえ、心の中が読めてしまって」
「……はは、まさかぁ」
「本当ですよ、僕も香奈子さんが好きです」

え、え、まってまさかこれって

「バレンタインマジックですね」

古泉が放心状態のあたしの手の中に小さな箱をねじ込む。もう何を言っていいやら、恥ずかしいやらで、何もできない。

「バレンタインの奇跡に、感謝」

そういって古泉の顔が近づいて……?
唇に何かやわらかいものがあたり、視界が真っ暗になる。

背中ごと強く抱きしめられ、なすすべもなく、あたしは小さく古泉を抱きしめ返した。


バレンタインデー
テレパシー


(本当に超能力者なんてずるい!)(今年は逆チョコということで)