いつものように集まりも終わり、いつものようにキョン君達と談笑をしながらかえっていた。そんないつものような日のまま今日という日が終わりを告げると思っていた。彼女が、いた。校門の前に彼女が居たのだ。彼女というのは香奈子の事であり、僕の好きな人だ。放課後になるといつも急いで帰る彼女はが校門で白い息を吐いて待っている。僕はまだ会話を続けているキョン君たちに何も告げずに全力で彼女の元へ走っていった。 「…っ、こ、こんにち、は。どうかされたんですか?」 「……息切れすぎ。べ、別に。何もないわよ。」 彼女はいつもの様に目を合わせずそういうと気まずそうに僕のほうに向きなおした。なんだか今日の彼女は落ち着きがなく髪の毛を触ったり服を直したりと常に何かをしていた。 「よかったら…一緒に帰りませんか?もう遅いですからお送りしますよ」 「べ、別に一緒に帰っても…構わないけど…」 彼女はまた目線をはずしてそう言うと早速歩き始めた。やや早歩きの彼女に合わせるように隣まで走っていくとさんは肩を大きく震わせまた少し前に行った。不毛なやり取りが続く中、僕は諦めて肩をすくめて3歩ほど後ろをついて行こうと決めてゆっくりと歩き始めた。すると彼女は歩く速度を緩めて僕の隣にあうように歩き出した。僕が彼女に向かって微笑むと、勘違いしないでよね。と口を尖らされてしまった。しかしそういった彼女の頬は赤く染まり、勘違いをしないでという方が無理な問題だった。 「古泉、あんたいっぱいチョコもらったんでしょ」 「いえ、全く」 「…嘘吐き。あたしの友達も古泉にあげるって言ってたわよ」 「今日は本命からしか貰わないって決めてるんですよ。」 「…ふーん、その様子じゃ貰えたみたいね」 「え?」 僕が彼女を覗き込むようにすると彼女は顔を見せないようにおもいっきり横を向いた。 「ここで、いいから…。送ってくれてありがとう」 そういうとさんは先程の僕のように(いや、それ以上)全力で走り出した。彼女の家には一度送っていった事がある。一年のとき、当時保健委員だった僕は早退をするという彼女を家まで送って行ったのだ。僕の記憶が正しければ次の角を曲がれば彼女の家についてしまう。僕は彼女の背中を思い切り抱きしめた。すると彼女は大粒の涙をぼろぼろと零しながら僕の頬を叩いた。 「その気もないのに…、そういう事しないでよっ!本命の子に貰ったんでしょ?!」 しゃくりあげながら叫ぶ彼女を見て僕は呆然としていた。本命の相手というのはさん自身であり他の子からのチョコは断っており今日は一つも貰っていなかったからだ。弁解をしようとして彼女の手首を掴むと彼女は顔を真っ赤にしながら涙を流し続けた。 「僕は、今日チョコを貰えませんでした」 「嘘、だぁ…」 「本当です。貰いたいと思っていた相手には…チョコの代わりに平手をいただきました」 「え…っ」 「ぼくが好きなのは、さんです。」 さんは一瞬手が震えて、そして止まった涙をもう一度溢れさせた。 「ごめん、なさっ、い…!」 「構いませんよ、全然」 「でも…あたし…!」 さんは僕の頬に手を伸ばしひんやりとした冷たい手で包み込んだ。なんだか、変な感じだ。こんなにも冷たいのに、こんなにも暖かく感じる。 「チョコ…」 「はい?」 「チョコ、貰ってくれる…?それともこんなあたしからは…嫌?」 「嫌なわけありませんよ。是非、いただきたいです」 満面の笑みでそういうと彼女は照れくさそうに笑って自分の鞄に手をかけた。大人びたラッピングの長方形の箱。両手に持ち替えてまだ少し潤んでいる瞳で笑いかけた。 「……古泉が、好き」
世界で一番淡く長い日 (僕も、)(好きです) |