「うぎゃああああああああ!何これまじありえないんですけどおお!」

担任のゴリ松から手渡しで返ってきた数学のテスト、それは産まれてはじめて取った一桁という点数でした。え、何それ、これ10点満点中?そうだよね。うん、そうだよね。あ、100点満点中だった。終わった。私の夏休み終わった。

「え!お前4点って……!ぎゃははは!ねーよ!なあ、これ見ろよ!!」
「は、榛名しねっ!!」

悲しみに浸る隙もなく隣の席の榛名が答案用紙をのぞいてきた。なんで後ろの山田君に見せようとしてんのコイツ。悔しいからのぞき返したらコイツ82点取ってて更に悔しくなったことはあえて言わない。ちがう、ちがうよ!これは榛名の実力じゃない!A組の秋丸君に教えてもらったっぽいから秋丸君の実力だ!そりゃまあ自分でもむちゃくちゃな言い分だと思いますよ。だからって教室中に聞こえる声でそんな点数、言わなくってもいいじゃん。4点って……、みんなこっち見てるし、あたしの友達とかも吃驚してる。そりゃそうだよ、みんな今回は簡単だった、って言ってたもんね!うん!あたしは笑ってただけだったけどね。教室中が一足遅れて爆笑の渦に巻き込まれた。みんなして笑いやがって……、こちとら好きでこんな点数取ったんじゃないんだよー!もうちょっと、ね、あると思ってた。せめて40点…とか。馬鹿かあたしは!10倍じゃないか!もう泣きたい。40点はあるとか思ってたことが恥ずかしい。んでもって横で未だに笑ってる榛名がむかつく。あたしが涙目のまま思いっきり睨んでやったら少しして笑うのをやめた。教室中もそんな雰囲気に気付いたのか急に静かになった。え、いや、そんなに静かになられたらなられたで困るんですけど。榛名もなんでそんな顔してんの、なんかあたしがわるいみたいな気分になるからやめてくれええ!

「あ…、その、わるかったよ……」
「う、ううん、いいよ榛名……」

涙の溜まっている目を擦って涙をふき取る。榛名に向かって微笑むと、榛名も照れながら笑みをかえしてくれた。ふふ、何か青春だなあ。みんなも軽く感動して拍手をくれてる。あたし、武蔵野にきてよかった……!

「青春してるところ悪いが、南野。お前夏休み無しな」

ビシッ、と凍る音がしたのが聞こえた。MKY(マジで空気読めない)ゴリ松が頭をぼりぼりとかきながら言った。榛名にいたっては今までのあの態度は一変、顔を真っ赤にして笑いをこらえている。今の謝罪は嘘かこのやろう。

「先生、あたし今ちょっと青春してたんですけど」
「だから青春してるとこ悪いが、って言っただろ」
「そういう問題じゃないですよ、それにこの一番大切な高2の夏休みがないってどういうことですか」
「どうもこうもそのままの意味だ。全部補習」
「なななななななななんで補習なんですか!」
「なんでもなにもお前が4点取るから……」
「くっ……!2学期がんばりますから!」
「お前それ中間のときも言っただろ。期末がんばりますからー。はい、今回期末です。」
「ぬあーーー!!」

あたしが叫び声を上げたらまた教室中が爆笑の渦に巻き込まれた。ちょっと皆味方なの敵なの?!榛名はもう笑いこらえきれてなくてひーひーいってる。うわ、何コイツほんとに失礼な。なにもそんなに笑わなくたっていいじゃないか。みんなだって酷いよ、みんな自分が4点とったときに笑われたら絶対いやだって!されて嫌なことはしちゃいけません!って小学校のときに習ったのに、みんなが4点取ったときに爆笑してやる、ばーかばーか!

「南野……!お前マジ最高…!」
「何親指立ててんのよ。グッジョブじゃないわよ、ぜんっぜん!」
「いやもう俺的にはマジ最高。すげーよお前」

ぐあームカつくー、また思いっきり睨んだら今度は満面の笑みをかえされた。もうちょっと違う顔をしろばかやろう、さっきのあの榛名はどこいったんだ

「更に青春してるところ悪いが、南野お前このままじゃ大学いけないぞ」

空気読んでんのか読んでないのかまた微妙なところでゴリ松が入ってきた。

「いや今は別に青春してなかったんで別にいいんですけど」
「そうか、悪かった」
「いえいえとんでも。ってそうじゃなくて大学いけないってどういうことですか」
「だってお前……4点だぞ?」
「あー、はい。4点ですね」
「2年で4点ってことは……3年2点だぞ?」
「いやいやどこにそんな方程式があるんですか」
「ということはセンター1点だぞ?」
「聞いてるう?!」

ゴリ松がなにやら飛躍しすぎな話をしてくれている。そんなこたあ吃驚だ。なんで今4点だからってセンターで1点なんだ。ゴリ松、あなたの頭が謎です。

「あ、先生そのことなら問題ねーっすよ」

榛名はまたいらんことを。だからなんでそんな活き活きしてんのさ。

「こいつ俺んとこに永久就職するんで」

そうそう永久……は?榛名の方を急いで向いたらまた親指立ててた。いやだからグッジョブじゃないって。教室中があたしと榛名に視線を注いでいる。え、まさかまじで

「あたしが榛名すきなの知ってたの?!」

榛名の目を見ながら言ったら、こいつの目が段々見開かれていって、口をあんぐりあけたのが分かった。あ、まさか墓穴掘った?榛名は冗談で言ってて……ってオチ?うわ、相当やばい。

「榛名!今の「まじで?」
「え?」
「南野まじで俺が好きなの?」
「え、うん」

ここで何故素直に頷くあたし。冗談だよ、とか空気読んでみたとか言えよ!榛名めちゃくちゃ吃驚してるし、あーもう今更冗談とか言えないよなあ

「えー!じゃあ俺ら両思い?!まじで?!」

榛名が椅子から落ちそうな勢いで叫んだ。むしろあたしが落ちそうだったけど。榛名が顔真っ赤にさせてこっち近づいてきて(うわ、顔近い)今更冗談とかないよな?ってすねたように呟いた。もう顔近くてそれどころじゃないあたしは何回も何回も頷くだけで精一杯だった。こうしてみると榛名顔整ってるよなー、とか思ったり。睫毛長いなとか、肌綺麗だなとか、唇柔らかいな、とか……?って、あれ?

気付いたときには榛名は顔から既に離れてて、教室中が大騒ぎだった。何が起こったか理解できてないあたしはただ目を見開いて榛名の顔を見つめてた。榛名が悪戯っぽく笑って就職先決定だな!って言った瞬間事態を理解して、顔から火が出るかと思うほど熱くなってしまった。

とりあえず永久就職先が決定しました。


数学ンセーション



(でもやっぱ大学行きたいから勉強教えて!)(おうよ!でも俺できねーから秋丸に聞きにいこーぜ!)(おーう!)