七夕の夜に彦星が来るように願っても私の彦星は来なかった。今日は7月8日で、もう夕方になってしまっている。もしかしたら一年に一度しか逢えない織姫と彦星は昨日存分にいちゃついたんじゃないだろうか。いいなあ、やっぱり私も会いたかったな。まあ、約束も何もしてないから、来ないのも会えないのも仕方ないんだけど。だけど、彼が言ってたあの言葉が本当になったらいいなあ、なんて乙女チックなことを考えたりして。去年七夕の日に商店街の通りにおいてある笹に[来年も再来年も私の彦星がそばにいますように]って短冊に書いた。赤いリボンで薄ピンクの短冊を笹にくくりつけると、横から私の書いた短冊を見ながら「来年も再来年もそばにいてやるよ」って言って笑いかけてくれて、凄い嬉しかった。だから、七夕の日だった昨日、来てくれたらいいなあ、って思ってたんだ。でも、来なかった。雨は降らなかったから、織姫と彦星は会えたんだろうなあ。彦星が来なかったのは、単に私が織姫じゃなかったからなのかもしれない。そう考えると悲しくなって、泣きそうになった。私はベッドに倒れこみ、握り締めていた携帯を開けてみる。――着信なし。短い溜息を一つ吐いて携帯を閉じた。もしかして携帯を離した瞬間鳴ってくれやしないだろうか、とか思ったけど、そんなことがあるはずもなく時計の秒針の音だけがむなしく部屋中に響いた。泣きたい気持ちを堪えて枕に顔を突っ伏すと窓を何かで叩かれているような音がした。……泥棒?と一瞬思ったけど、まさかこんな明るい夕方から泥棒をする輩は居ないだろう!という無意味な思い込みからさっきから何度も叩かれている窓辺に近づいた。ストーカーや本当に泥棒なら叫んでやろうと思って息を思い切り吸い込んで窓を思いっきり開けて下を見た。その瞬間、奴は石を投げようとしていて、すごく綺麗な投球フォームで、それで投げたら割れるんじゃないの?って言うほどに恐ろしかった。しかし投球体制に入ってしまったからには止められない。焦って方向転換したけどもう遅い、というか逆効果だ。手の中から小石が私めがけて飛んできた。……え、

「ふごぉっ!!」
「げぇっ!わりぃ!」
「い、たたたたたた……。って、榛名!?」
「よっ!久しぶり」

ぼーっとしていた私は見事に小石が顔面に命中してしまった。本気じゃなかったのと、少しでも方向転換をしてくれたのが唯一の救いで、当たった箇所を思いっきり抑えてしまった。そのまま窓から身を乗り出して下で笑いながら手を振っている人をまじまじと見る。……榛名、だ。え、でもでもでも、榛名は埼玉の武蔵野第一で、こっから遠すぎだから勿論学校帰りなわけじゃなくって、連絡も何も来てないし、この頃は忙しいからって普段のメールも全然なくって……

「……うそぉ」
「嘘じゃねえって!」
「……本物?」
「偽者に見えるか?」

にやりと笑って親指で自分の胸を叩く。あ、懐かしいな。榛名の癖だったよね。自分の事を言うときに右の親指で自分を指すの。じゃあ、じゃあ今ここに居るのは

「……榛名だぁ」
「だからさっきから言ってんじゃん」
「ほんとにほんとに榛名だぁ!」
「ほんとにほんとにに榛名だって」
「な、なんで……?」
「なんで、ってお前願ったじゃねぇかよ」
「……え、?」

もしかしてもしかして。きょとんとした私を見てちょっと拗ねた様に榛名は横を向いた。でも、榛名が覚えててくれてるかな?あぁ、でもここまで来て、そんなこと言われたらもう期待するしかないよね?

「「来年も再来年も私の彦星がそばにいますように」」

何だ、覚えてんじゃんと笑った榛名の胸に2階から思いっきりダイブした。




(あ……っぶねーなぁ!)(だって早く榛名に触れたいんだもん!)(……、許す)






                              ★          


            






                            








                           ★















       






    ★







き き 星
 ら ら