大丈夫かな、焼けてるかな。そんな事を家から出るまでの間、学校につくまでの間、学校に着いてからも私はずっと確認していた。なんたって今日は花井の誕生日だ。野球部の一マネージャーでしかない私は特に凝ったプレゼントも用意してなく、愛情だけはこめて作った特性クッキーをシンプルな袋に包んで大事に抱きしめて持っていった。割れないように、いつもの田島のハグも華麗に交わして(思いっきりぶーたれてたけど!)がんばって7組の教室まで着いた。……そうです。花井と私は同じクラスなのですよ!と、同時に同じ野球部マネージャーの千代とも同じクラスというわけで。朝から私の相談室を開いているというわけです。

「ねねっ、ー。まだ渡さないの?」
「ちちちち千代っ!!皆に聞こえる!」
「あははっ!焦りすぎだってー、これ位じゃ何の話してるかわかんないよ。」
「うー……だって…。っていうか多分教室では無理!」

私は体の前に両手で大きな×を作った。千代はくすくす笑った後に横目でちらりと花井たちの座っている方を向いた。あわわ!ばれちゃうよ!……という私の心を知ってか知らずか、水谷と目が合ったらしい千代は頼りない笑いを作った後にまたすぐにこっちを向いた。

「花井君さ、多分まだ誰からも貰ってないよ!」
「そ、そうかなあ……?」
「うんうんっ!だから、一番に渡して印象つけちゃおうよ!」
「えっ、で、でも…、花井あんなにカッコいいんだもん…。 絶対もう誰かから貰ってるって!」
「誰がカッコいいって?」

私と千代が勢いよく後ろを向くとそこには花井の姿が…、なんて漫画の出来事のようにはならなくて、私達の後ろにはいやらしーい笑いを浮かべた7組の悪魔…基、阿部隆也がそこに居た。

「なんだ阿部か……。」
「なんだとはなんだよ。 失礼じゃねーのかさん?」
「いやー、ちょっと花井かもって期待したんですよね。 よく漫画にあるじゃん」
「そうそう旨くいってたまるか馬鹿」
「あ、女の子に馬鹿って言ったー!阿部死ね」
「うわー、男の子に死ねって言ったー」
「うっざ」

そんないつものやりとりを行っていると千代がおずおずと右手をあげながら質問してきた。

「あのー…、阿部君にばれても動じない、ね?」
「あっはっはー!だって阿部は……」

ん?阿部?え、阿部ってあの阿部隆也?西浦野球部キャッチャーの阿部隆也?タレ目の阿部隆也?花井の友達の阿部隆也……?

「うっわぁぁああぁぁあああ!!」
「あ、気づいてなかったんだ!」
「ばーーーーーっか」

今思いっきり阿部に馬鹿にされた気がする。じゃなくて、え、え?聞かれた?もしかしなくても聞かれましたよね?私が花井の事カッコいいって言ってたこととか……。私普通に会話続けてたし…。え、なんだ阿部か……じゃないよね?!あーもう!戻れるなら3分前に戻りたい!!そして私の失態をやり直したい!

「……聞いてた?」
「花井がカッコいいって?」
「うわぁああぁ!言うなあ!確かに花井はかっこよくって頼りになって野球部の主将としても一男子としてもとても魅力的だけどさ!それ今ここで言うことじゃないよね?!」
「まあ俺的にはお前の叫んでることのほうが今ここで言うことじゃないと思うけどな。」

私は、へえ?というなんとも素っ頓狂な声を出してふと我に返った。すると教室は思いっきりシーンとなっていて皆こっちを向いている。千代は困ったような笑い顔を浮かべていて、水谷はすごいキラキラした笑顔を花井に向けている。……ん?

「花井?!」
「は、はいっ!」

もうなんか茹蛸みたいな顔になっててこれ以上赤くならないよね?というかなれないよね?っていう位真っ赤顔をしながらこっちを見つめていた。多分、私もそれに負けないぐらい真っ赤な顔をしているんだと思うけれど。阿部はまた意地の悪そうな笑みを浮かべて、「今ここでいうことはあるんじゃねーの?」と一言呟いた。くそう、このこと想定してたのかしていないのか。とりあえず今日の阿部のおにぎりの具は塩だ塩。

そんな事をぐるぐると考えながら私は机の上に置いてあった愛情だけはこめて作ったクッキーを花井の前に両手で差し出した。体全体が震えるけど、声もすごく震えるけど、多分これ以上にはないってくらい勇気を振り絞って、花井の目を見て言葉を発した。

「た、誕生日おめでとう、花井!それと……大好きです!」

一瞬すごい驚いて、これ以上赤くなることはないと思っていた顔が更に赤く染まった。それから私の手からクッキーを受け取り「俺も……好き、だ」と一言呟いた。え、これ、夢?私がぼーっとして花井を見てると教室中が大騒ぎになった。男女共に騒ぎ出しお祭り騒ぎのようなものになっている。私と花井はお互い俯いたまま一言も喋らなかった。周りが騒いでいる中ここだけ時間が止まっているような気がした。そんな中、阿部が私の背中を思いっきり押した。と、同時に水谷も花井の事を押したのでお互いに抱き合う形になった。思いっきり顔が熱くなるのがわかったけど、花井が背中を抱く力を強めたので私も強く抱きしめた。あ、花井の匂い。石鹸のにおいがした。水谷とかが使ってる男もんの香水とかじゃなくって、さっぱりしてるさわやかな石鹸の香り。花井らしいな、なんて考えてたら急に手を引っ張られてしまった。

「う、えぇっ?!花井?!どうしたの?!」
「あんな恥ずかしいところにいつまでもいれるかよ!」

花井は思いっきり走り出して、廊下を一目散で駆け出した。教室のドアから阿部と水谷と千代がこちらをみて手を振っている。皆優しい笑顔でこっちを見てくれている。口々に「おめでとー!」とか、「お幸せにねー!」とか、「別れんなよ」という声が聞こえてきた。くそぅ、阿部め。おにぎり一個だけ鮭にしてやろう。でも私は花井について走るのがいっぱいで、とりあえず満面の笑みとピースサインを返しといた。そして花井のほうを向いて走りながらも話しかけた。

「はーないー!」
「なんだよー!」
「だーいすきだよー!!」
「……おれもだー!」

嬉しい、幸せ。もうそんな単純な言葉しか出てこない。でもそれだけでいいのかもね。花井が傍にいるだけで、私は自然と笑顔になれるんだから!








しあわせってなんですか


(それはあなたが傍にいること!)